愛される自信を君にあげる

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 ちょんと触れるだけのキスをされる。あたしは初めての経験に何と返していいかわからずに俯いてしまったが、三条課長は愛おしむように目を細めて笑っただけで何も言わなかった。  唇が離れると、頬を撫でたり、癖の強い髪を指に絡め取られて遊ばれた。  別に何をするでもなく、たた怠惰な時間を過ごしている。  緊張感のないそれがすごく心地よかった。  両腕に包まれていると温かくて、ふわとあくびが漏れた。  壁に掛けられているインターフォンがけたたましく鳴り響かなければ、このまま寝入っていたかもしれない。 「英臣さん……? でなくていいんですか?」 「なんか、勧誘とかじゃない? 面倒だからいいよ」  三条課長の言葉を聞いていてまるで違うとでも言うように、続きざまにピンポンピンポンとインターフォンの音が響いた。 「誰だろ。笑留、ごめんね」  慌てるでもなくそっと髪を撫でられて、三条課長が立ち上がった。  ピッと電子音がして外の音が聞こえた。 『居留守使ってるのはわかってるんだ。さっさと出てきなさい』 「父さん」  不機嫌そうな声が聞こえたかと思えば、相手は三条課長のお父さんらしい。  どうしよう。  あたしは、やっぱり帰った方がいいんだよね。 「ちょっと待ってて。今、彼女が来てるんだ」 『なに、麗ちゃんか?』 「違う。だから、待っててって言ってるでしょ?」     
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