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「うん。困ってるから恋人のフリしてって頼めば、キミに近づけるかなって打算があった。じゃなかったら、いくら幼なじみとはいえ、仕事中にあんなに話しかけないよ。笑留が麗の友達だったからだ」
「最初から、フリじゃなかったんですか」
「違うよ。恋人になってって言ったでしょ? 麗は、俺がキミのこと好きなの知ってたからね。実家にはあいつしょっちゅう出入りしてるし、こういう時幼なじみって面倒だよ。すぐバレる」
麗は何もかもを知っていて、自分が結婚させられるって大変な時に、あたしと三条課長のことを考えてくれてたんだ。
そりゃあ、麗にだって打算はあったんだろう。
あたしと三条課長がうまくいけば結婚はなくなるわけだから。
やっぱり麗はあたしにとって憧れだ。
「でも、麗のおかげで……あたしは英臣さんとこうしていられるんですね」
「そうだね。麗に借りを作るのは癪だから、そのうち返そうか? 二人で」
「はい」
麗に幸せになって欲しかった。
あたしは、二人が仲睦まじく手を繋ぐ姿を想像し、頬を緩ませる。
お互いに幸せになれるのだと、この時はそう思っていた。
八
「笑留! ねえ、これ知ってる!?」
話しかけてきたのは、同僚の三田薫だ。
薫とは同期入社で部署が違うものの、会えばよく話す。
興奮状態で壁に貼られた紙を指差していて、あたしも釣られて視線を移した。
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