愛される自信を君にあげる

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 あたしが仕事が終わるまで履歴を確認しないのは知っているはずなのに、三条課長はよほど慌てていたのだろうか。  すぐにでもかけ直したい思いに駆られる。  けど、彼の口から模擬挙式の話を聞きたくはなかった。  仕事だから仕方ない、ごめんね──そう言われたら、大丈夫ですって頷くしかない。  会社を出たところでどうしようかと立ち尽くしていると、手の中のスマートフォンが震える。  発信元は三条英臣──。  仕事場も一緒だし、避け続けることなんて不可能だ。  ちゃんと自分でどうにか落としどころを見つけないと。 「はい……」 『あ、笑留? 仕事終わった? あのさ』 「聞きました……模擬挙式のことですよね? あの、あたしは平気ですから、仕事だし、当日の手伝いもさせていただきますので、じゃあおやすみなさい」 『え、ちょっ……』  言いたいことだけを言って、数秒で通話を切った。  珍しく慌てた三条課長の声が耳に残る。  だって、あたしがイヤだって言ったってどうしようもない。  想像したってわかる。  三条課長と麗が模擬挙式をすれば、売上も上がるだろうことは一目瞭然だ。  並んでいてあれだけ自然にお似合いの二人はいない。  誰しも、自分もああなりたいと願うし、こういう挙式をあげてみたいと思わせる効果は抜群だ。     
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