愛される自信を君にあげる

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 一人きりの家に帰る気になれなくて、気がついたら三条課長ときたバーに足を運んでいた。  明日も仕事だ。  けど、たまにはフレックスを使って少し遅めに出勤しよう。  幸い午前中に担当してるお客様の打ち合わせは入っていない。  時間に余裕があれば、他の担当者の披露宴のヘルプに入ろうかと思っていたぐらいだ。  忙しい時期だが、それぐらいの融通は利く。  何を飲むかと聞かれて、カクテルの名前も知らないあたしは、オススメでお願いしますと答えた。  偶然か否か、目の前のカウンターに出されたのはあの時三条課長が頼んでくれたカクテルと同じ色。 「カンパリ・オレンジ……」 「ええ。そんなに強くないカクテルですから、女性にお勧めすることが多いです」  バーテンダーの男性はそう答えて、手を上げて店員を呼ぶ他の客の対応にあたった。  喉が渇いていたのもあって、一気にグラスを傾ける。  冷たいカクテルが身体に沁みる。  はぁっと息をついて、もう一度グラスを持ったところでカランと氷が音を立てた。 「もう一杯同じものを作りましょうか?」 「あ、はい……お願いします」  空腹のままカクテルを飲んだからか、頭が少しクラクラする。  何か食べようかと考えたが、一人でつまみながら酒を飲むのも侘しくて、これだけ飲んだら店を出ようと決めた。     
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