愛される自信を君にあげる

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 運ばれてきた二杯目を、今度はゆっくりと口に含む。 「ねえ、一人で飲んでるの?」  となりのスツールが引かれて、スーツを着た男性が腰かけた。  何だろうと重くなった瞼を薄く開けながら小さく頷く。 「一杯ご馳走させてよ」 「いえ……あたし、これ飲んだら帰るので」 「俺も一人で寂しいからさ。じゃあ、それ飲み終わるまで話してていい?」  俺もって、あたしが寂しい女みたい。  うん、寂しい女で間違いはないんだけどね。  勝手に話してくれるならBGMぐらいのつもりで聞いていればいいかと、欠伸を噛み殺してカクテルを飲み進める。  ずっと仕事が忙しかったからか、本格的に眠くなってきた。  男性に耳元で喋られて、脳がうるさいとそれを拒否してる。  目を瞑ると、身体が徐々にカウンターへと沈んでいく。 「眠いの? どこか休めるところに連れて行ってあげようか?」  肩に手を置かれて、香ってくる匂いはお酒とタバコの匂い。  男性の距離が近づいて肩を抱き寄せられた瞬間、急に後ろから伸びてきた手がカウンターに置かれ覚えのある声がする。 「この子俺のだから……手離してくれる?」  いつも聞く声よりも、明らかに不機嫌に冷たい。     
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