愛される自信を君にあげる

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 二人にバレないように立ち去ろうと後ずさるが、三条課長の胸から顔を上げた麗と目が合ってしまった。 「笑留っ!」  あたしは逃げるようにその場を後にした。  昨夜の幸せな時間なんか、見事に頭の中から消え去った。  三条課長があたしを裏切ったとは思わない。  やっぱり薫が言っていたとおりだ。  シンデレラストーリーなんか、そうそうない。  世の中は収まるところに収まるようにできている。  もしかしたら、こんなあたしでも王子様みたいに素敵な人と幸せになれるかもしれないなんて、嘘だった。  あたしはやっぱりヒロインにはなれなかったみたいだ。  所詮、モブはモブ。  ショックではあるけど、心のどこかでもしかしたらこの幸せは一時的なのかもしれないって、覚悟してた部分はあった。  三条課長と結婚して、老いてもずっと一緒にいるって──そんな妄想して馬鹿みたい。  叶うはずなかった──やっぱり、麗に敵うはずがなかった。  わかっているのに。  お父さんに似てたら、三条課長はあたしを選んでくれたのかな。  麗みたいに美人だったら──大好きな人のそばにいられたのかな。  あたしの諦めきった感情とは裏腹に、涙がボロボロとこぼれ落ちた。  どうやって業務を終わらせたか覚えていない。     
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