4580人が本棚に入れています
本棚に追加
「前にね……小学校の頃、一回だけお母さんに〝お父さんに似てたらよかった〟って言われたことあるの、覚えてる?」
「え……お父さんに似てたら? そんなことあったかしら……ああ、小学校……もしかしたら、五年生頃のこと?」
お母さんが覚えていたことに驚きながらも、あたしは複雑な思いで話を進めた。
「うん、多分」
「そういえば……そうね、あったわね。子育てしてて、ほんと初めてってぐらい、悔しかったのよね」
お母さんはあたしの向かい側に座ると、急須からお茶を注いで両手を温めるように湯呑みを持った。
昔を懐かしむように目を細めて、あたしに複雑そうな笑みを見せる。
「悔しいって?」
「覚えてない? いつも仲良くしてたさやかちゃん」
覚えている。
むしろ忘れるわけがない。
あたしは引っ込み思案で、さやかちゃん以外友達と言える存在はいなかった。
小心者で誰かに積極的に話しかけることもできない子だった。
休み時間も朝も帰りも、六年間ずっと近くに住んでいるさやかちゃんと一緒に過ごした。
中学に入ってすぐに彼女は家の都合で引っ越してしまったから、その後連絡は途絶えてしまったけれど、何をするのも一緒だった思い出がある。
「覚えてるけど……」
最初のコメントを投稿しよう!