愛される自信を君にあげる

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 いや、多分お母さんにとっては〝そんなこと〟ではなかったんだ。  懐かしい思い出を話す表情じゃない。  今でも思い出せば悔しさしかないって、そんな顔。  あたしはその後、ペンケースのことをすぐに忘れたんだと思う。  さやかちゃんとも何事もなかったかのように遊んでいた。  今、こんな話をお母さんとしてなければ、さやかちゃんのことすら思い出さなかったかもしれない。  子どもにとっては、日常の中にある瑣末な出来事だ。  ただ、お母さんに言われた言葉は違った。  そこに至った背景はすべて忘れていたのに〝お父さんに似てたら〟それだけは頭に残った。 「あたしは……外見がお父さんに似てたらよかったって、言われてるんだと思って……」 「そんなこと言うはずないじゃないっ! っていうか、確かにお父さんはハーフみたいな顔立ちしてるけどね。私だって、大学の頃ミスコンで優勝したことあるんだから……まあ、ちょーっとだけ太っちゃったけどね」 「ちょっと?」 「失礼ね。でも、昔はハーフみたいな顔立ちの人って珍しかったし、目鼻立ちが整ってると美形に見えるからね。そういうところで苦労はさせたと思うけど……あなたは親の贔屓目なしに見ても可愛いし、どこに出しても恥ずかしくないように育てたつもりよ?」     
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