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アパートの廊下には、サラサラの髪を暑そうにかき上げた三条課長の姿があった。
「どうして……」
「直接話したくて」
別れ話だから、相手の顔を見て話そうとしてるのかな。
嫌な予感を払拭するほどの自信は残念ながらまだなかった。
信じさせてあげるって、以前に三条課長はそう言った。
お願いだから、あなたの気持ちがあたしにあるって信じさせて。
「あたしも……聞きたいことがありました。狭いですけど……」
「ありがとう」
百八十もある三条課長が玄関に立っていると、もともと狭いあたしの部屋はますます狭く感じる。
部屋の中央に鎮座する卓袱台の前に向かい合って座る。
お茶でもと思ったが、早く話をしたい雰囲気が伝わってきて、ただ三条課長が話し始めるのを待つ他なかった。
「麗……やっぱり恋人とのこと反対されたみたいで、見合い話持ってこられたって言ってた」
「英臣さんと……ですか?」
お願いだから肯定しないでと、祈るように震える声で聞いた。
目の前から穏やかな声で違うよと告げられたことに、胸をなでおろす。
あたしはまだ、あなたに好きでいてもらえてる?
「俺はもう断った後だったから。手近なところにいた俺に白羽の矢が立っただけで、条件に合う相手がいればそれでもよかったんだよ」
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