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なんでスーツに身を包んだお父さんがここにいて、あたしの隣に立っているのかって。
いくら何でももう気づく。
こういう悪戯めいたことをするのは、三条課長以外にいない。
聞き慣れたアメージンググレイスが流れ始めれば、引き返すことなんてできるはずがない。
スタッフの手で両扉が開けられて、祝福の拍手に包まれた。
一面はめ込みガラスのスカイチャペルは、まさしく天空のウェディングだ。
左側に新婦の親族、右側に新郎の親族という決まりだけれど、両側は見知らぬ人ばかり。
式場を見学に来たお客様だろう。
その中に混じってお母さんまでいるんだから、一体いつこんな打ち合わせがされたんだと驚く他ない。
ゆったりした音楽に合わせて、あたしは一歩ずつ足を進める。
いつもこんな想いで新婦はバージンロードを歩いていたんだって、少しだけわかった。
お母さんの後ろの席に麗がいた。
その表情は安堵と幸せに満ちていて、あたしはよかったと胸をなで下ろす。
三条課長はもう大丈夫だと言っていたけれど、麗とまだ直接話はできていなかったから。
そして、麗の口元がゆっくりと動き、オルガンとハープの生演奏に混じって言葉がかけられた。
「おめでとう」
もうお母さんも泣いてるし、模擬挙式なんだから。
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