愛される自信を君にあげる

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 声を出さないように必死に涙を抑えてるお父さんの腕から、あたしはそっと手を離した。  三条課長と目が合って、何してるんですかって睨んだつもりだった。  けど、本当に心の底から嬉しそうに微笑まれてしまえば、あたしまで嬉しくなってきてしまう。 「笑留に似合うドレス、ずっと探してたんだ。思ったとおり、綺麗だよ」  賛美歌を斉唱している間、三条課長が声を潜めて言った。  そして誓いの言葉が交わされる。  ここで働いているあたしからしたら、耳慣れた言葉。  それが特別なものに感じる。 「それでは誓いのキスを」  あたしのベールが上げられる。  三条課長の顔が近づいてきて唇が重なった。  模擬挙式なんだから、誓いのキスはフリでいいはずだ。  けれど、しっかりと隙間ないほどに唇が塞がれる。  ちょっと長すぎない?  甘すぎるあたしたちの雰囲気に周りがざわつき始めると、三条課長の唇が離れていった。 「今更だけどさ」  騒めきに乗じた三条課長が、あたしの耳元に唇を寄せて囁いた。  しかし、チャペルでは声を潜めていたとしても話し声は響いてしまう。  お客様は式の続きが始まったのだと思ったのだろう。  すぐにざわつきは収まった。 「はい」 「俺と結婚してほしい」  こんなところで公開プロポーズされるとは思わずに息を呑んだ。     
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