4577人が本棚に入れています
本棚に追加
声を出さないように必死に涙を抑えてるお父さんの腕から、あたしはそっと手を離した。
三条課長と目が合って、何してるんですかって睨んだつもりだった。
けど、本当に心の底から嬉しそうに微笑まれてしまえば、あたしまで嬉しくなってきてしまう。
「笑留に似合うドレス、ずっと探してたんだ。思ったとおり、綺麗だよ」
賛美歌を斉唱している間、三条課長が声を潜めて言った。
そして誓いの言葉が交わされる。
ここで働いているあたしからしたら、耳慣れた言葉。
それが特別なものに感じる。
「それでは誓いのキスを」
あたしのベールが上げられる。
三条課長の顔が近づいてきて唇が重なった。
模擬挙式なんだから、誓いのキスはフリでいいはずだ。
けれど、しっかりと隙間ないほどに唇が塞がれる。
ちょっと長すぎない?
甘すぎるあたしたちの雰囲気に周りがざわつき始めると、三条課長の唇が離れていった。
「今更だけどさ」
騒めきに乗じた三条課長が、あたしの耳元に唇を寄せて囁いた。
しかし、チャペルでは声を潜めていたとしても話し声は響いてしまう。
お客様は式の続きが始まったのだと思ったのだろう。
すぐにざわつきは収まった。
「はい」
「俺と結婚してほしい」
こんなところで公開プロポーズされるとは思わずに息を呑んだ。
最初のコメントを投稿しよう!