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放課後―――――。 靴を履き、帰りにいつも立ち寄る桜の木方へ向かったが、直ぐに足が止まった。 そこには既に誰かが立って木を見上げているのが見えたからだ。 あの後ろ姿は間違いなく有栖川。 仕立ての良いスーツを難なく着こなし、すらっとした脚をしっかりと地面につけ、少しウエーブかかった髪の毛をなびく風から抑えながら桜を見上げている。 そんな後ろ姿をボーっと見ていると、視線を感じたのか有栖川が振り返った。 「よぉ。奇遇だな。」 「さっきまで話をしていたでしょう。」 口から出る言葉は言いたい事と逆の言葉。 「桜綺麗だな。」 有栖川はさほど気にする様子もなく、木を見上げている。 「この桜、とても引き寄せられるんです。」 自分でも訳の分からない事を言っているのは十分理解 していたが、有栖川はそれを茶化すわけでもなく「わかる気がする。」と言ってきた。
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