1.

2/5
前へ
/26ページ
次へ
社会科の準備室の窓の外には、大きな桜の木が一本植えられている。 小さく欠伸をしながら、有栖川は小テストの答案用紙から視線をその大きな桜の木にやった。 まだ蕾は固く寒々しいその木の下で生徒が一人うたた寝をしているのが見えた。 今日は天気は良好。 生徒は本を抱えながら足を延ばし頭を垂れ、身体が段々と斜めになってきている。 赤ペンと眼鏡を机の上に置きながら席を立つとゆっくり窓の方へと歩み寄った。 目頭を抑えながら窓を開け「そんなところで寝てたら、風邪ひくぞぉ。」と声をかければうたた寝をしていた生徒は体をびくつかせ目を開けた。 「あ、誰かと思ったら倫太郎じゃん。こっち来れば?」 声のトーンを変えて口角をあげながら手招きをする。 寝ているところを邪魔された生徒は、無言で立ちあがりお尻についた埃を払いながら、桜の木の下から離れた。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

84人が本棚に入れています
本棚に追加