少し前

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「ねえ、あなたはどうしてここにずっといるの?」 「ここに縛られているからだ」 「縛られてなんかいないじゃない。紐とか鎖とか、ないじゃない」 「分からないのか? 私には術がかけられているじゃないか」 「ジュツ? 知らないよ、そんなの」 「そうか。知らないか。なら知らなくていいさ」 「ねえ。この桜は今年はいつ散るかしら?」 「完全に散るのはあと5回日が沈む時くらいじゃないか」 「そう。じゃあ今年も無理ね。もっと長くはできない?」 「具体的には?」 「分からない」 「それじゃ無理だね」 「分かってたら長くできた?」 「いいやできない」 「なによ。じゃあ意味無いじゃない」 「そうか。それはすまないな」 「いいのよ。また来年があるから」 「なんだ。また来るのか?」 「当たり前よ。来年こそは、ママとお花見するのよ」 「まま?」 「お母さんよ! 知らないわけないでしょ?」 「母か。私の母ねぇ」 「ママいないの?」 「母はこれかな」 「えっ? この桜の木?」 「そうだよ。私はここから生まれた。いや生み出されたというか、なんというか」 「変なの……人じゃないのね」 「人じゃないよ。おや? お前は人の子だったのか?」 「人じゃないのっ?! ああ、だからそんなヘンなお面をしているの?」 「ヘンなお面とは失礼だな。これは顔だ」 「えっ! 嘘!? じゃああなたは口がなくて、真っ白で、目がひとつしかないの?」 「そうだよ」 「でも耳はちゃんと肌色をしているじゃない! 肌色と白色に境があるわ、やっぱりお面じゃない」 「なんだ、騙されないのか」 「騙されないわよ! どうしてお面かぶってるの」 「私の顔を大っぴらに出すと他の妖怪に食われてしまうからね。人と間違えられて。全く嫌な話だ」 「そうなの、じゃあ素敵な顔をしているのね」 「どうしてだ」 「それは食べちゃいたくなる顔をしてるからじゃない?」 「……よくわからんな」 「私もよくわからないや」 「ところで大丈夫か。日が傾いて来ているぞ」 「えっ? ああっ本当! もう6時! 早く帰らなきゃパパに怒られちゃう」 「さっさと帰れ人の子」 「あなたも早く帰ってね! 明日またここでお話しましょう! 私明後日帰るから」 「そうか。まあ、どうせ私はここに縛られているからここにいるよ」 「あっそっか、じゃあまたね!」
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