5/8
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 他と離れた場所に一本、他の桜よりも少し散った桜の木を見つける。その下には、白髪の老いた女性と、綺麗な黒髪を一つにまとめた若い女性。後ろ姿だが、親子に見える。綺麗な黒髪。  その若い女性は、優しく老いた女性の手を持っていた。よく見ると、老いた女性の空いた手には、杖が握られている。  まさか――希望を大きく持って――と思い少年は、息をのみ、二人の女性に近付く。  あと5歩くらいの距離で、老いた女性が振り向き、少年の方を向く。相手の目は、少し視点がずれていたにせよ、間違いなく少年を捉えていた。そして、隣の若い女性の手をそっと引っ張る。若い女性は振り向いた。  その女性の瞳は黒く、色は白く。何より黒髪の中に一つ、綺麗に輪が描かれていた。  少年は確信する。「あなたは、サクラ……さんですね」  すると女性は驚いた表情を見せて、少し躊躇い、老いた女性の方を向いて何か手を動かして、老いた女性の手を離す。老いた女性はゆっくりと、杖を頼りに桜の木の下へ歩み寄り、桜の木の根元に杖が当たるとその場に座り込んだ。  若い女性はそれを見届けて、私の方を向く。「あっ、怪しまないでくださいね」 「怪しむわよ」  ですよね、少年はなんとなく、ほとんど苦笑の愛想笑いを見せた。 「……まあ、確かに私はサクラです。私に何か用ですか?」  サクラさんの綺麗な黒い瞳で見つめられると、少しドキドキしてしまう。少年はぎゅっと目を瞑り、本題を切り出す。 「信じられないと思いますが、あなたが小さい頃約束を交わしたであろう桜の木にいる桜の奴と、話をしました。それで、そいつは、サクラさんと約束を交わしたと言いました。それを、果たしたい、と。果たせないけれど、せめて会いたい、と」  会いたい、という点は奴自身からは聞いていないが、そうだろうと、私は言い切る。  静寂な間。  恐る恐る目を開けると、サクラさんは僅かに目を潤ませて、少年を見ていた。 「本当に……? 本当に…、桜がいたの?」  あいつ、桜なんていうのか、と思いつつ、少年は頷いた。するとサクラさんは喜びの声をあげる。 「そうなの、そうなの! ごめんなさい桜。私、もうあなたに会えないと思って。それに、お母さん戻ってきて、それで…暫く行けなかったから、そしたら、もう桜の木が切られたなんて知って、もう、もう会えないと思って……!」  サクラさんは涙を零した。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!