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「どうして、あの桜で花見がしたいかっていうとね」
少年はサクラさんと、サクラさんの母と共に、電車に揺られていた。あの桜の木の切り株へ向かっていたのだ。
「お母さん、綺麗な川でゆっくりお花見がしたいって言っていたの」
ここの街の桜は川沿いにあるから、と言ったけれど、年々増えている花見の人で賑やかで、それでもいいのだけれど、できれば静かなところがいいという。そんなこんなでいると病に倒れ、長期間病院で過ごすことになった。
そこでサクラさんは綺麗な川と桜があって静かな場所を探しつつもお見舞いに行っていたらしい。そうして見つけた場所が、桜の木。
そこには偶然桜の精だという彼(ここで桜と記すと少しややこしいので)と会うことが出来て、親しくなって、いつかここに花見にくるから、その時はいっぱい出迎えてくれると、約束を交わした。
しかし8年前、その桜の木が切られたという事実を知る。
どうやらあそこに1本だけというのは、曲がり角があり、そこが丁度隠れてしまい危なかったという。そこでその木を切り、曲がり角の視界をハッキリとさせるために切ったという。あの木は、立った場所が悪かったのだ。
桜の木が切られた一年前の秋、母は退院することができ、家に戻っていた。だから、じゃあ次の春花見をしよう、という時に切られた。
サクラさん自身はそこに行こうとしたが、それでは花見ではない、それに、母にそんなわざわざ遠いところで何も無い場に向かわせられるか、という父の言葉で、身近の賑わう花見スポットですませた。
「だから私が悪いんだわ」
それに、サクラさんの母は病気が治ったといっても、視力がかなり落ちた。見えないわけではないが、杖と導きなしでは歩くことが困難な程に。
「なんか、すみません、そんなことだというのに」
「ううん、この行動は私が悪いの。私が勝手にお母さんを連れていっているから」
そんなことを言うサクラさんはどこか嬉しそうだった。桜に会えるからだろうか。
無事に街について、少年達はあの桜の木の切り株の下へ向かう。
「桜、桜はどこ?」
サクラさんは目の前にいる桜に気付かない様子で、辺りを見回す。桜は静かに笑った。「もうさくらには、私が見えないんだね。それもそうだ。私の力は弱い」
「それは、切り株になったからか?」
桜は首を横に振る。そして、サクラさんに手を伸ばす。
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