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「さくら。私と会えなくとも、約束は果たせることが私にはわかったよ。ひらめいたんだ」  桜は伸ばしきった手をサクラさんの顔に触れようとする。「人の子」  私は桜に顔を向ける。驚いた。桜は面を外していた。奇妙なデザインの面は切り株の上に置かれている。  桜の素顔は美しいものだった。「うわ……なかなかの美青年じゃないか」 「冗談はよせ。ところで人の子」冗談ではないが、まあいいか。 「さくらに、伝えてくれ。約束を果たす、と」 「え?」  そう言い終えた桜は、サクラさんに顔を向けて、両手をサクラさんの顔へ。包み込む様にして、手を頬に触れさす。  その瞬間、桜の手が砕けていく。 「桜?!」 「早く。早く伝えておくれよ。後、上を見ていてくれと。できればそこの……きっと母だろう? 母と共に、と」  少年は言いたげにするがやがて桜を理解した。そして、サクラさんに声をかける。「サクラさん、お母さんと一緒に、桜の木を見てください!」 「えっ?」困惑した表情を、サクラさんは見せた。サクラさんの母は、上を見上げていた。 「あ、ああ!」  そして、サクラさんの母は大きな声を上げた。「どうしたのお母さ「咲良、見て! まあ、綺麗なものよ! 早く見て、早く!」えっ?」  サクラさんが上を見上げる。そして、驚いた表情を見せた。  桜がサクラさんに触れたと同時に、砕けていったと思われた桜の手は、桜の花びらになっていたのだった。  そして、切り株の断面に置かれていた奇妙なデザインの面はどんどん幹へと、枝へと化していき、大樹を成す。その大樹に桜の花びらがどんどん色づくように付いていき、一つの美しく、凛とした桜の木が成された。 「桜……? これ、桜が咲かせたの…? 待っていたの?」  サクラさんは涙を流した。少年は僅かに微笑んだ。「桜は、約束を果たす、と言っていました。ついさっきに」 「そうなの? 本当に?」 「ええ」  サクラさんは嬉しそうに木を見上げた。サクラさんの母は嬉しそうにサクラに話しかけている。それに嬉しそうにサクラさんは答えていた。  少年は桜の木を見上げる。奥の方で僅かに人影が見えた。「あっ、そこに――」人影は降りてきて、私の口を塞ぐ。そこには、面を外した桜が。しかし今までとは違い、虚ろに見える。 「何も言わないで」  桜は微笑む。
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