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「それにしても、立派な木彫だ。まるで生きているようだ! あっぱれだ! 褒美を取らすから、これを拙者にくれ!! 我が家の家宝とするぞ」
「……いや、それがぁ」
男は困ったように頭を掻く。
「ダメと申すか?」
「……いやあ、あっしは良いんですけどね」
「先約が居るか? 拙者の家の桜の木だぞ?」
「いや、そうでは無いんですが……。」
「ならなんなんだ? ハッキリ言えっ!」
「桜は言いました。あっしに彫り出して家に帰してくれと。なのでーー」
と男が言うと、木彫の娘は自ら動き出して、駆け足で門から出て行った。
お武家さまはそれを目を丸くして見ていた。
「桜は、生まれたお山に帰りました」
男が言った。
「真の彫師は、ただの木片にも命を吹き込むというが……。お前の名は?」
「名乗る程の者ではありませんよ。別にあっしが命を吹き込んだ訳ではありやせん。聞こえるんです。木の声が。このお屋敷の前を通った時に、娘の悲しい声が聞こえました。目を瞑ると姿が見えました。そして、桜の中から、頼まれた通りに彫り出してやったんですよ。元々、桜の木の中には娘が埋まって居たんでさあ」
終わり
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