竜を求めて

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   その思いの丈で限界を突破したアンナは、魔法の習得を喜ぶ……事はなかった。当たり前である。彼女の真の目的は、空を飛ぶこと。  魔法の習得はその足掛かりでしかない。例え、実力的には帝国で一番だろうが、世界最高峰だろうが喜びはしない。  空を飛べなければ、彼女にとっては何の意味ないのだから。  ちなみに、空を飛ぶための魔法は存在しない。だが、人間の魔法に無いだけで竜は空を飛んでいるので、飛べない道理はないだろうっと飛行魔法を作り出そうとアンナは画策している。  まあ、そう簡単に新たな魔法を作り出せる訳もなく、今のところ現実性の無い話だ。……今後、魔力への理解や魔法の知識を深めていけばどうなるかは分からない。  閑話休題。  身体能力を上昇させる魔法を覚えた事で、体力と膂力の問題から解放されたアンナの行動は早かった。  両親はその驚異的な学習速度と保有する魔力量に、やっぱり貴族学校や魔法学校に……っと言い出したのだが、アンナに「ヤっ!」とバッサリ切り捨てられた。  問題も障害も無くなったアンナは、一週間後には故郷を離れて、畜産都市フェルトベルンへと向かった。  この際、付き添い人は居なかった。強化魔法によって人体機能では敵わない運動能力を発揮するアンナの移動速度は馬……いや、自動車並である。  しかも、消費する魔力よりも回復する魔力量の方が多いので、燃料の切れない自動車みたいなモノだ。  そんなアンナの移動速度に着いていけるのは、それこそ竜ぐらいしか居ない。  仕方なく両親は娘を一人で旅路に着かせる事にしたのだった。  数日分の食料と衣服、そして少なくないお金を両親から持たされて、アンナはフェルトベルンへ。親離れが早い、とかそう次元の話ではない気がするが、こうしてアンナの一人旅が始まった。  まあ、一人旅は三時間くらいで終わったのだが……。  百キロ程しか離れていないフェルトベルンへ、時速四十キロくらいで休まず走り続ければ、二時間半あれば辿り着けるのだ。小学生でも分かる事だ。  
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