竜を求めて

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   畜産都市フェルトベルンは、城壁で市街と外を区分けするような城郭都市ではない。  生産物の運搬が頻繁に行われるフェルトベルンでは、城壁を設けて防衛力を確保する事よりも、生産物の運搬効率を重視したのだ。  この世界には種族固有の魔法を扱う“魔物”と呼ばれる攻撃的な野生生物が生息しているので、人間が住む場所には何かしろの防壁が築かれるものなのだが……フェルトベルンにはその類いのものはない。  強いていうなら、畜産農家の畑の周りに溝を掘ったり柵が設けられているだけだ。  害獣被害は個人で何とかするのが、フェルトベルンの暗黙の掟。……と言いつつも昔がらの農家の大規模コミュニティのような所なので、ご近所付き合いは良好な都市である。  ご近所の仲間同士で取れた作物の質や育てている家畜の大きさなんかを張り合って切磋琢磨しつつ、他の家の誰かが倒れて畑や家畜の世話が出来なくなれば率先して助けにいくような、心の暖まる農家で溢れている。  それはフェルトベルンに住む畜産農家だけの話ではない。ここに住む竜師も同じなのだ。  フェルトベルンは生物界のヒエラルキーと頂点に君臨する竜達に守られている。散歩や狩りの練習という名の下に、竜師による巡回警備を行われているのだ。  それも誰に頼まれた訳でもなく、無償で竜師は巡回を行っている。  そのお陰で、城塞が無いにも関わらずフェルトベルンの害獣被害件数は国内で最も少ない。  帝都も害獣被害は少ないが、ここフェルトベルンには 負けているし、犯罪率も帝都よりも低かったりする。  頻繁に行われるご近所付き合いが犯罪防止にも繋がっているようで、フェルトベルンは帝国一安全な都市なのだ。  国の中心地である帝都よりも、地方都市の方が治安が良くて自然災害が少ない……なんというか、情けない話である。  
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