竜を求めて

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   そのあるまじき行為に、エリアスは大変驚愕し狼狽えた。  そして、アンナはその頭を下げるという行為が、視線を逸らされたっと思い絶望した。 「……また嫌われた…」 「え? また??」 「ふ、ふひひ……何でもないですぅ」  ちょっとアンナの精神が不安定なったのだが、気のせいだと己に言い聞かせて、何とか耐え凌いだ。  しかし、毎朝頭を下げられるので、その度に絶望する事になる。アンナからすれば嫌われたままなのだから仕方ない。  プロの竜師であるエリアスから言わせれば、単に最大の敬意を示されているだけなのだが、理由は彼にも分からないし、無論アンナにも分からない。  まさか、竜達が本能的にアンナの魂が放つ力が、伝説の老竜や最高種たる竜王のソレと同じだとは思いもしないだろう。  彼女の前世での、人外と言える空での活躍や功績が魂へと焼き付き、それを竜達が読み取る事で出来た歪な上下関係。  竜とは生物の頂点に君臨するが故に、慢心的であり、獰猛でもある。しかし、それと同時に高潔さも持ち合わせている。  弱者には、慢心な態度を取り、邪魔する者には容赦なく襲い掛かる。そして、自身の認めたモノや上位者には頭を垂れて敬意を持って接する。  それが、竜達の受け継がれてきた掟であり、本能そのもの。実力至上主義の生物、とでも言えばいくらか分かりやすいのだろうか。  つまり、アンナは一生竜達から頭を下げられ続ける訳だ。なんと可哀想な幼女だろうか、おぉ憐れ憐れ。  可哀想な幼女の件はさておき、竜達もアンナに敬意を向けつつも、疑問というか、理解出来ない事があった。  竜達からすれば、アンナからする魂の匂いや気質は竜王のソレであるのにも関わらず、何故姿形は人なのか。  何故、お前は竜体ではないのだ?  これは、彼女に出会う全ての竜が一度は思い描く疑問になるのだった。  
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