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竜も年寄りなれば老人と変わらないのか、起床が随分と早くなる。
通常の老竜ならば、一時間程度の誤差なのだが、ジークの場合はそれよりも更に早い時間に目覚める。
その時間帯が丁度、アンナが毎度の習慣を終わる時間と被るのだ。
そして、ジークはどちらかと言えば、変温型の飛竜種なので、季節に関係なく朝の気温がまだ低い時に目覚めるのは老体に障る。
それを気にして、アンナは毎朝ジークの元へ足を運ぶのだ。
「──穏やかなる暖かな恵みよ、今かの者に与えられん、『ホット・ウォーター』」
寒そうに巨体を丸くする老体に、四十度前半程度の温水が降りかかる。
『ホット・ウォーター』、文字通りお湯を発生させる魔法である。魔法の難易度としては初等だと思われそうな安易なネーミングかつ、簡単な現象を引き起こす魔法に思えるが、入門・初等クラスの生活に役立つ魔法ではない。
入門であり初歩の魔法、また生活魔法と呼ばれるモノの中に、『ホット・ウォーター』は存在しない。
もし、生活魔法のみでお湯を作り出すならば、少量の水を生み出す魔法『プチ・ウォーター』と種火程度の火を起こす魔法『ミニ・ファイア』を同時発動させなければならない。
火力が殆ど無い小さな炎では水を暖めるのには時間が掛かるし、水も少量しか生み出せないので作られるお湯は少量しかない。
それがアンナは嫌なので、二つの魔法の上位互換に当たる『ハイドロ・スフィア』と『ヒートウェーブ』という二つの魔法を組み合わせた混合魔法を作り出した。
魔法を習って三ヶ月の幼女が、基礎となる魔法があるとはいえ新しい魔法を創り出すという暴挙。
この事が世間に知れれば、世界中の魔術師や魔導師達はいい笑いのタネになるだろう。
……笑いのタネどころか、失脚してしまうだろうけど。
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