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北帰行まで
五六豪雪以来という大雪も、三月の春風が残りの痕跡を街中からほぼ消し去っていた。それでも田舎道へ入って行くと、ところどころに堆い状態で寄せ雪が残っている。それは奇妙な懐かしさとともに、ついこの間までのありふれた風景が変化していくことへの、淋しさに似た感情を与えるのだった。
春らしさをそこかしこに見つけることはできたが、空気はまだ冬のそれと変わりない。帰りはもっと寒くなるだろうと思い、防寒を整えた。
風を切って自転車を漕いでいくと、顔の表面温度が奪われていくのとは反対に、身体はどんどん暖まっていった。
美咲は父親を置き去りにしてやろうとでもするように、先へ先へと進んでいく。新学期セールで買ってやった新品の自転車を、ずいぶん気に入っているようだ。
二年生の後半にぐっと身長の伸びた美咲には、年長組の頃から使っていた物はサドルを目一杯に上げてもいかにも小さすぎた。
新しい遊び道具を手に入れた美咲は、それに乗ってどこへでも行きたがった。
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