【2】

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 外から見ている時は気付かなかったのに、その森の中には彼の言うようにたくさんの人が居り、笑い合いふざけあう声があちらこちらから聞こえる。着物姿の男女や、鹿鳴館という名が浮かぶようなクラシカルなドレスを着ている女性、近所の祭りの稚児行列に出てくるような子供達。月明かりが梅の花の白さを際立たせ、電気がついているわけでもないのに頭上は明るく見える。  皆、彼に手を引かれて歩く実乃里の方をちらとは見るけれど眼を合わせることなくすれ違って行く。木々の間、足下の花々の間を縫うように歩いていたが、次の一歩を出そうとして周りは膝くらいの丈の菜の花に囲まれ足の踏み場所が無いのに気付き、一度上げた袴の足を戻すと、子供の声がした。 「ねえちゃん、だれ?」  見ると、菜の花があったと思った場所に黄色い着物の子供たちが居て実乃里を囲んでいる。気付けば手を繋いでいた彼の姿は無い。 「だれ?」 「だれ?」  口々に言う子供達の騒ぎを聞いて着物姿の女性が来た。 「どうしたんだい」 「紅梅のねえちゃん、見たことないねえちゃんが居るよ」
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