ざしきぼっこ

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驚いた。人間こんなに驚くと言葉が何も出なくなるらしい。 声の主はさも、自分の家でくつろぐように冷蔵庫からビール缶を取り出している。見た目は大体二十代後半、女性、綺麗な黒髪。服は着ている。生地の薄い夏用のパジャマだ。私は恐る恐る声をかける。 「あの、どちら様で……」 ビールを飲もうとしていた彼女は驚くようにこちらを見てそれからビールを見た。こちらに向き直ると少し頭を悩ませてから単調に「秘密です」と笑った。その瞬間何かが私の中で組み替えられていくのがわかった。私はただ目の前に居る彼女の美しさに目を奪われていた。そしてそれを拒まなかった。 「とりあえず私のことはショウコとでも呼んでください。しばらくの間お世話になります。きっとあなたとなら仲良くしていけそうです」 それだけいうと彼女は恥ずかしそうに笑ってからまたビールを飲んでいた。 相手の素性も目的もなぜ家にいるかもわからないまま同棲を始めた。 くしゅんという彼女の可愛らしいくしゃみが少し離れたところで聞こえた。何か美味しそうな匂いが鼻をくすぐった。寝てしまったらしい。置時計に目をやるとさっきから十分くらい経っている。 「起きましたか? もうご飯出来ますよ」 「ありがとう。任せちゃってわるい」 「いいですよ。その変わり晩酌付き合ってくださいね?」 「もちろん、でも二本目だろ?」 「いいじゃないですか! 昇進祝いってことで」 彼女と同棲を始めてから私は少しだけ会社で上手くいくことが増え、先日大きなプロジェクトを成功させて部長職に内定した。 彼女が韮野菜炒めを持ってこちらに来る。 「はい、どうぞ。美味しいよ?」 私の目の前に小さな笑顔が現れる。首に手を回して顔を近づける。 「どうしたの!?」 顔を赤く染め少しだけ体を強ばらせる。 「好きだよ。」 「酔っ払ってるなー?」 「バレたかー」 あははと彼女が笑った。つられて私も笑った。彼女が私に抱きつく。 「酔っ払ってるついでに一つ大胆なことしようかなー」 そういうと彼女は私の足に乗る。そのまま私の首に彼女が手を絡める。火照った顔が更に熱くなる。 「あのね、私ね」 彼女が話すと耳が擽ったかった。私も彼女の身体に腕をまわす。華奢な身体だった。氷に触れているようだった。
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