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彼女が待ち望んでいた桜がやっと満開に咲き誇った。
「ねぇ、日向くん!私、桜見れたね!」
そう笑顔で笑いかけてくる彼女に、僕も笑みを返した。
「うん、良かったね。治療に耐えたお陰だよ!」
桜の木に近づいて、桜を眺める僕達。
幸せだった。
彼女は、満開の桜に目を輝かせていた。
その時だった
「あれ、日向ー?なにしてんの?」
クラスメイトの石橋だった。石橋は桜の下にいるのを見て、不思議そうに歩いてきた。
「あ、石橋くんだ!」
「桜見てるだけ。石橋こそなにしてんの?」
「あー、散歩?」
「なんで疑問系なの、石橋くん!笑」
彼女は、久しぶりのクラスメイトとの再開に喜んでいた。
彼女は、2学期半ばに入院して、今日やっと退院だったのだ。
そして、彼女は僕と、満開の桜を見るという約束をして、待ち合わせ場所はこの桜の下だったのだ。
「俺、もういくわーじゃあな!」
「ばいばいー!」
「あぁ、また学校でね」
桜はひらひらと舞っている。
いつか、この桜は散るのだろう。それは、人間も同じ。桜が散ることを、死と例えるならば、散るのが早い桜と、遅い桜があるのは当たり前のこと。
でも、僕は神様を恨んだ。
なぜ今日なのだと。
なぜ彼女が散るのは今日だったんだと。
「綺麗だね~!日向くん!」
彼女は気づいていない。
自分に、石橋の目が向いていなかったことに気づいていない。
誰一人、彼女が見えていないことに気づいていない。
自分が死んだことに気づいていない。
そのうち、彼女は気づく。
自分が、僕との待ち合わせ場所に来る最中に事故に遭ったことを。
自分が死んだということを。
彼女の幸せそうな顔。
彼女が生きているうちに伝えればよかった言葉が浮かんだ。
でも、もう遅い。
「ねぇ、」
彼女が振り向く。
『君はもう散っているんだ。』
そんな残酷なことは言えなくて、僕は目を伏せた。
「なにー?」
「なんでもないよ」
「…ふーん、そっか」
君が今だけでも幸せならそれでいい。
ただ、それだけで。
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