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何気なく桜の木に語りかけていた。
そしてあの夜、俺はアイツを殺す計画を実行した。
木枯らしの荒ぶ、尋常じゃなく寒い夜だった。
俺はアイツのアパートで張り込んでいた。
ジャケットの内ポケットに、こっそりと小瓶を忍ばせている。
中に入っているのは青酸カリだ。
俺は病院で看護師をしている。
青酸カリは職場から盗んだ。
アイツか出てくる。
整った女受けする顔の男。
由紀子を騙した男。
俺が殺そうとしている男。
俺は跡をつけた。
アイツは近所のスーパーに向かい、そこで買い物をした。
そして帰る前にアイツは喫煙所に寄った。
ここ数日アイツを観察していた俺にしてみれば、予想通りの行動だった。
何食わぬ顔で喫煙所に行く。
演技の経験などないが、俺はできるだけ平常心を装いながら、
「あ、すみません。火を貸してもらえますか?」
と、アイツに話しかけた。
「ああ、良いですよ」と、アイツは俺にライターを差し出してくれる。
ライターを受け取った俺はアイツに背中を向けて、火を点けるのに手間取るフリをして、ライターの指を当てるところに青酸カリを付着させた。
「ありがとうございます」
「いえいえ。構いませんよ」
青酸カリ付きのライターをべったり触りながら、アイツはポケットに入れた。
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