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急
あの日、俺はアイツの死体を桜の木の下に埋めた。
由紀子を助けるため、俺はアイツの部屋に行った。
「このままじゃ、私が殺したと思われるかも知れない」
由紀子は酷く不安げだった。
「俺が埋める。死体が見つからなければ、由紀子もきっと疑われない」
「でも、それも犯罪だよ」
「ああ。でも大丈夫。これは俺が勝手にやることだから」
真夜中になり、人気がなくなってから、俺はアイツの死体を運び出したのだ。
そして春が来た。
秘密の共有が俺と由紀子の距離を一気に縮めてくれた。
桜が咲く頃、俺と由紀子は付き合うことになった。
俺は幸せだった。
だか、気づいてしまった。
あれ?俺が青酸カリ付着させたライターって、ひょっとしたらまだ、アイツの死体が、、、?
そうだ。
アイツはライターを上着のポケットに入れた。その上着ごと、俺はアイツを埋めた。
まずい。
もしもアイツの死体が発見されたら、あのライターの青酸カリも調べられるかも知れない。俺がアイツに殺意を抱いていたことを知られてしまうかも知れない。俺がアイツを殺したことにされてしまうかも知れない。
俺は焦った。
俺はアイツの死体をまた掘り出すことにした。
真夜中になって、俺はあの神社の桜の木へと向かった。
焦ると普段はしないような凡ミスをするものだ。
コンタクトを忘れて出た。
普通なら視界の悪さにすぐ気付くことだ。
それも気づかないくらい、俺は焦っていた。
一刻も早く、この焦りを取り除かなくては、、、
神社に着いて、桜の下を掘り返す。
けれど、、、
そこにアイツの死体はなかった。
見れば東の空が薄っすらと明るい。
朝だ。
俺はどうしたら、、、?
そこに犬を連れた爺さんが現れた。
早朝の散歩だろう。
俺を見つけて爺さんが言う。
「何で、梅の木の下を掘っとるかのぅ?」
俺は全てを叫んで、曝け出してしまいたくなった。
「そうだよ。俺はこの梅の下にアイツの、、、」
って、え?梅?
桜じゃなくって?
あ、ホント、梅だぁ。
「ええっと、何で掘ってんだろね~、、、そだね~」
思わずの1人会話。
いっけねぇ、、、間違えちった、、、
見ればちょっと向こうで、桜が満開に咲いていた。
お花見でもして帰ろっかなッ。
全く、俺の人生は思い通りにならない。
(了)
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