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そう言って小笠原は抗う春臣を引き寄せ、ぎゅうと抱きしめた。
「今井が俺の事好きで、俺も今井の事好きなのに、どうして諦めなきゃいけないの?」
「だって、俺は……!」
「今井の泣き顔見たくなくて、必死になって『俺が跳ぶ』とか言ってさ、俺はそんな訳わかんない状況で、走り高跳び始めちゃった男だよ? そんな男が簡単に諦めると思うか?」
「っ……」
優しく諭すように耳元で囁かれ、とうとう我慢していた涙が零れた。
「それなら、こういうのはどうだ? 俺が楽しかったり嬉しかったりすることを半分だけ諦めて今井にあげる。だから、今井もツラかったり苦しかったりすることを半分、俺にちょうだい」
「そんなの、ダメだ。小笠原はちゃんと」
「じゃあ、ちゃんと俺と向き合って。自分の気持ちと向き合って。お願いだから、一人で抱え込まないで」
涙を吸い取るように頬に柔らかいものが押し当てられた。
「あ」
それから、ふわりと唇も掠めていった。その温かい感触の正体が小笠原の唇だと気づき、驚きのあまり抗うことすら忘れた。かあぁぁっと頬が熱くなるのがわかる。目の前には、蕩けるような笑顔の小笠原。
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