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口をきいたのも数えるほどしかない。もしかして名前さえ憶えていないかもしれない。そんな男にいきなりイタズラを仕掛けられて、小笠原だってどう反応したらいいかわからないのではないか。
馬鹿げたことをしてしまった、と鏡をふさごうとした瞬間、少し動いた小笠原の肩に光が当たってしまった。
ふと、小笠原がこちらに視線を寄越す。
(気づいたのか?)
だが、小笠原はそのまま女子マネージャーらしき人物と共にその場から歩き去っていった。
(気づいてないのか? いや、気づいたとしても、自分に声をかけるわけがないし)
春臣はその場に固まったまま、二人の後姿を見送るしかなかった。
薄暗い教室でひっそりと太陽観測をしている自分。熱くもえるような太陽の下で生き生きと体を伸ばす小笠原。
そのあまりの対称ぶりに思わず自嘲の笑みが漏れる。
しばし呆然と立ち尽くした後、一つ溜め息をつくと片付けを再開した。
そこへ、リノリウムの廊下をキュッキュッと踏み鳴らし近づいてくる足音。
「失礼しまーす」
ガラっと勢いよく扉がひらかれ、顔を出したのは小笠原その人だった。
「あれ? 今井一人?」
中の様子を窺うようにきょろきょろと辺りを見回している。
「え? ……あ、うん」
そっけなく答えたものの、意中の人物の突然の登場に心臓はばくばくだ。
「天文部だよね?」
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