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名前を憶えてくれていたことですら驚きだというのに、天文部だと何気なく語っていたことも憶えてくれていたことに春臣は内心小躍りでもしたいほど嬉しかった。だがそれはおくびにも出さない。あくまでもポーカーフェイスを貫く。
「そうだけど、何か用?」
言ったあとですぐに後悔する。どうして、いつもこんな突き放したような話し方しかできないのだろうか。
「さっきさ、チカって光があたって見てみたら今井がここから顔だしてるのが見えたからさ、なんか部活やってんのかなぁと思って」
「あぁ、うん。太陽観測」
「へぇ、天文部って夜、星を見るだけじゃないんだな」
「太陽だって星じゃないか」
「あー、まぁ、そうなんだけどさ」
小笠原は鼻梁を擦りながら苦笑している。
「太陽なんていつでも見上げたらあるじゃん。何、観測するんだ?」
「黒点だよ。それをスケッチしてる」
小笠原と話ができることが嬉しいはずなのに、こんなぶっきらぼうな応対しかできない自分が情けない。邪まな感情は絶対に悟られてはいけないが、もう少し親しみをもって話ができないものか。
「黒点?」
「太陽のシミみたいなもの。肉眼では見えないけど、望遠鏡で投射するとわかるんだ。見てみる?」
片付け終えた望遠鏡のカバーに手をかける。小笠原は慌ててそれを遮った。
「え、いいよ。わざわざ出さなくても。今しまったところなんだろ?」
「まぁ、そうだけど。別に大したことじゃないし」
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