第一章

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 少しでも長くそばにいたいと思っての行動だったが、気を遣わせてしまったらしい。 「いいっていいって。今度はいつやるんだ? 俺また見に来てもいいかな」 「晴れてる限り毎日やってるけど……」  小笠原はきょとんとした表情を浮かべた。 「んじゃ、いつもここ来てたの?」 「うん」 「そっかぁ、そうなんだぁ」  何かを思案するように辺りを見回すと、窓際へと近づき窓枠に手をついた。 「ここからだと陸上部の練習してるとこ良く見えるんだな」  身を乗り出すようにして外の様子を眺める小笠原の背中を見ながら、春臣はいけないことを見咎められたような後ろめたい気持ちになる。 「なんか損した気分だな、今まで全然気付かなかった」 「え?」 「今井と二年になってクラス別になっちゃったからさ、あんまり話す機会とかなかっただろ。ずっと気になってたんだ」  小笠原はニカっと笑うと、傍らにおいてあったペットボトルを手に取った。 「これ飲んでいい? 喉カラッカラ」 「いいよ」  飲みかけのペットボトルを顔をのけぞらせて飲む小笠原。上下する喉。なだらかな山をつくる肩の筋肉。Tシャツが汗ではりつき浮き上がる肩甲骨。すべてが春臣には美しい芸術のように見えた。 「サンキュ」     
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