第二章

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 そしてぐるりと右腕を回しぴょんぴょんとステップを踏んだ後、助走を始める。綺麗な跳躍。小笠原の身体はひらりとバーを飛び越えた。マットレスの上に起き上がるともうこちらは見ずにグラウンドを小走りに横切っていく。その先の方向には、校舎への入り口がある。  どきどきと胸が高鳴る。春臣は舞い上がって不自然にならないよう平静な表情を保ちながら、淡々と望遠鏡のセッティングを続けた。  そうこうしているうちに、キュッキュッと廊下を進む上履きの音が近づいてくる。  「よっす!」  ガラリと扉が開くと同時に、小笠原の弾んだ声が地学室に響いた。暗く静かだった部屋がぱぁっと明るくなる。 「ほら、この黒いシミみたいに見えるのが黒点」  台の上に投射された太陽を、小笠原はしげしげと眺めている。 「ほんとだ、確かにシミだな」 「表面温度が低いところがそうみえるんだ」  春臣は言いながら手早く黒点のスケッチを始めた。極大期には数百にものぼるらしいが、現在の黒点はぽつりと一つあるだけ。あっという間に終了だ。 「これだけ? もう終わり?」  遮光カーテンを開け、スケッチした記録表をファイルに挟んでいると、小笠原が名残惜しそうに眉をハの字に下げる。まるでお預けをくらった犬のようだ。 「ちょっと待って」     
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