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実際のところ、春臣は星座の名前といえばオリオン座くらいしか知らないし、天文雑誌を読んだこともなければ、家に望遠鏡があるわけでもない。太陽につい ても然りで、ぶっちゃけて言えば、特に天文学というものに対して興味を持ったことはなかった。部活にしてもたまたまふらりと気まぐれで入ったにすぎない。
人の気配のない薄暗い校舎に足を踏み入れると、少しだけ外より涼しい空気が流れていて春臣はやっと人心地ついた。
途中の自販機でよく冷えたスポーツドリンクを買い、階段を三階まで上り、しんと静まり返った廊下を進む。一番突き当たりの部屋が、天文部が間借りしている地学室だ。
ドアを開けると途端にむわんとするような熱気が身体を包み込む。
南側の窓から殺人的な陽光が燦々と降り注いでいる。春臣は手早くその窓を全開にすると身を乗り出して眼下を眺めた。
グラウンドの一番端、テニスコートのフェンスの手前に走り高跳び用のウレタンマットがひっそりと設置されている。その脇で一人ぽつんとストレッチをしている人物がすぐ目に入った。
小笠原樹。
彼こそが、春臣がこの暑い中をわざわざ毎日ここに通い続ける理由。
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