第一章

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 小笠原とは一年生の時に同じクラスだった。背は春臣より数センチ高いだけだが、陸上をやっているせいですんなりとしなやかな筋肉が身体を覆っている。一番印象的なのは切れ上がった目元だ。眼光は鋭く黙っているとキツい感じがしたが、笑うと途端に犬ッコロみたいな人懐っこい顔になる。性格も明るく快活で、クラスの中心的グループに属していて、彼の周りはいつも華やかだった。人との関わりをあまり積極的にもたないタイプの春臣とは当然、接点はない。  初めて言葉を交わしたのは体力測定の時だった。上体起こしや反復横とび、五十メートル走など二人ずつペアを組みお互いの記録を測り、測定表に書き込んでいく。出席番号順で、春臣は小笠原とペアを組むことになった。  元々、春臣は運動が好きではない。スポーツ全般に対して、こんなことして何が楽しいんだと背を向けてきた。やれと言われれば、人並み程度に動くことはできたが頑張ろうなどという気はさらさら起きない。一方、小笠原は一つ一つの種目に全力で打ち込み自分で納得のいく記録がでた時などは子供のようにはしゃいでいた。春臣はそんな小笠原を冷視すらしていた。  一周二百メートルのトラックを十周する持久走。 小笠原はペースを落とすことなく一定のストライドで見事に走りきった。タイムを伝えると、とても良い成績だったらしく「よっしゃ!」とガッツポーズをしてみせた。額に浮かぶ玉のような汗が弾け飛ぶ。その後、交替して春臣が走った。五月半ばといえど日差しが強く、運動不足の身体はたちまち悲鳴を上げた。最後の数周になると、ぜいぜいと息をしながら亡霊のようにふらふらと脚を動かすのが精一杯だった。     
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