第一章

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 小笠原は春臣のタイムを測定表に書き込むと、その場にばったりと倒れたままの春臣の足元にしゃがみこんだ。 「ちょっと、足貸して」  意味がわからず怪訝な表情を浮かべる春臣におかまいなしに小笠原は、ひょいと春臣の脚を持ち上げた。そして「ほっとくと筋肉痛になるから」と言ってマッサージを始めた。  すねの筋をのばすように膝から下に向かって親指を押し当て滑らせる。足の関節から膝の方向へ、今度は軽くクルクルと円を描くように押し上げていく。手刀で何度もリズミカルに叩く。踵を持ち上げ小刻みに揺らし、ふくらはぎを振動させる。そんなマッサージを両脚とも丁寧に行ってくれた。  陸上部ではたぶん日常的にあたりまえに行われている行為なのだろう。小笠原の手つきはとても慣れたものだった。だが、運動系のクラブに属したことのない春臣にとって他人に足を触れられることはちょっとした衝撃だった。初めて施されるマッサージも思いのほか気持ちがいい。  ざわざわとする気持ち。なぜか後ろめたいような感覚が芽生える。     
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