第一章

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 それから、春臣はこの同性のクラスメイトを意識するようになった。特に会話を交わすほどの仲ではなかったので目の端で追いかける程度だったが、それでも春臣がこの男に友情以上の特別な感情を抱いてしまっていると気付くのにそう時間は要さなかった。  どこが好きだ、とか、どう惹かれた、なんて具体的には説明のしようがない。  ただ、気がつくと小笠原の一挙手一投足、表情、声、触れるもの、すべてが気になってしかたがない。何をしていても、どんな表情を浮かべていても、輝いて見える。  たぶんそれが「恋に堕ちた」ということなのだろう、と春臣は自分に結論付けた。  もちろん、その気持ちを打ち明けるつもりなどない。打ち明けてもどうにもならないことはわかりきっている。なんと言っても自分も相手も男なのだ。気味悪がられるのは目に見えている。春臣自身ですら、気持ちを持て余して当惑しているくらいなのだから当然だ。  ただ、こうして眺めるくらいは許して欲しいと思う。この目に、一瞬でも多く彼の姿を焼き付けておきたかった。    
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