第八章

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 目をあわせるのが後ろめたくて、ぎこちなく返事をしながらカウンターのいつもの席に着く。 「いつものでいい?」 「はい、お願いします」  程なくしてカウンターにロックグラスに注がれたウーロン茶が差し出された。 「どうぞ」 「ありがとうございます」  ことりとロックグラスを春臣の前に置くとマスターはまたすっと春臣の前から離れた。マスターはちゃんと心得ていて、春臣が話しかけてほしくないと思っている時には黙って放っておいてくれる。  両手でグラスを包みこむように持ち、カラカラと音をたてながらぼんやりと丸氷を眺める。と、ほどなくして藤岡が声をかけてきた。 「ハル、今日はいつもより一段と色っぽいね」 「藤岡さん……」  なんの変哲もない白いシャツにジーンズを合わせただけのいつも通りの服装だ。ただいつもより少し精神的に疲れて落ち込んでいるのでそれが表情に表れているのかもしれない。藤岡はするりと春臣の隣に腰掛けて、顔を覗き込むようにしながら甘い笑みを浮かべる。 「今日こそは付き合ってくれるんだろ?」  マスターがまたかという感じで抗議しようと身を乗り出したが、春臣はそれを遮るように「いいですよ」と答えた。元から今日この店に来たのも、この男からの誘いを受けるためだった。     
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