第一章

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 春臣は実験用の作業台に置かれている望遠鏡のカバーを丁寧に取り外した。  口径八十ミリの屈折望遠鏡に、太陽の黒点観測用のシーロスタットが取り付けられている。シーロスタットは、二枚の平面鏡を使って太陽からの光を望遠鏡の中に導くための装置で、鏡筒内にいったん太陽を取り込んでしまえばあとはモータードライブが自動でそれを追尾してくれる。室内にいながらにして太陽観測ができるスグレモノだが、台座はいかにも素人の手作りといった感じの木製で、往年の天文部員達の手によるものだ。その三点セットで総重量は優に二十キロを越える。  それをよろよろと持ち上げると、腰窓の下の壁一面に造りつけられている戸棚の上に設置し、鏡筒の先の部分だけを窓から外に出るよう調整する。  非力な春臣にとってはちょっとした重労働だ。  シーロスタットほどではないものの重い赤道儀を担いで炎天下の屋上で観測しろといわれればさすがの春臣でも弱音を吐いていたかもしれない。御免被りたいところだ。     
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