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腕をひっぱられ、半ばひきずられるようにしてその場を後にした。ちらりと振り返ると、藤岡は少し困った顔を浮かべながらもその場に留まっていて、追ってはこなかった。
はぁはぁと息を弾ませながらつれて来られたのは小さな公園だった。街路灯がぽつんと一つ灯る下に、朽ちかけたシーソーが横たわっている。
「ここまで来れば大丈夫か」
中屋敷はやっと掴んでいた手を離すと、俯いたまま何も言わない春臣をベンチに座らせた。
「どうしちゃったんだよ、今井」
新堀が心配そうに顔を覗き込む。
「あの男と、……ホテルに入るつもりだったのか?」
対照的に、中屋敷の冷静な声が響く。図星をつかれて、カっと頭に血が上った。
「そうだよ! 俺は男がすきなんだよ、悪いか!」
勢いに任せてそう叫び、立ち上がろうとする春臣を新堀がベンチに押し留める。
「放せよ!」
「今井が誰を好きになるかは確かに自由だ。それはいいけど、さっきのヤツはそんなんじゃないだろ?」
「自分を安売りするな」
「ほうっておいてくれ! もう俺なんて、どうなったっていいんだ……っ!」
膝に顔を伏せてすすり泣く春臣を、二人は傍らで何も言わずに見守っていた。リーリーと虫の声。身じろぎをするとじゃりっと砂が鳴る。
やがて、二人は春臣の横でぽつりぽつりと話を始めた。
「あんま星、見えないな。さすがに周りのネオンが明るすぎるか」
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