第九章

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 そして、子供のように膝を抱えその間に顔をうずめた。ざーざーと雨が降る音がする。濡れていくアスファルトの匂いがする。  先ほどまでぎらぎらと太陽が照り付けていたのだ、雨が降るはずなどない、悪い妄想だ。いくら自分にそう言い聞かせてもどんどんと心が侵食されていく。一臣の身体が車にぶつかり、まるでおもちゃのように吹き飛ばされる映像が、先ほどの小笠原と重なる。  恐怖と後悔が春臣の心を苛む。じっとりといやな汗が全身にまとわりつき、呼吸がはぁはぁと浅く早いものになる。ただ嵐が過ぎ去るのを待つように、春臣は苦痛に耐えた。     
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