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初めて間近で見る走り高跳びの支柱のバー受けは春臣が少し目線を上にあげなければならない高さに固定されていた。こんなにも高く飛んでいたんだ、という驚嘆と感慨。いつもまるでテレビの画面を眺めるように見ていた景色の中に自分が入り込んでしまったようで、現実感がない。
ウレタンマットに視線を移すと、小笠原が怪我をした時の様子が頭にフラッシュバックしそうで思わず顔を背けた。
ふと、黄色に輝くグラウンドの砂の上に、一際明るく輝く部分があることに気づいた。楕円の形をしたそれは、すーっと春臣の足元を横切っていく。何かの光が反射しているのだと気づき反射的に反対側を振り返った。見上げると地学室の窓から突き出したシーロスタットの反射鏡がきらりと輝くのが見えた。その隣の影になっている部分に小笠原の姿が一瞬見えて、春臣は訳もわからず駆け出した。
息を切らしながら地学室に戻ると、小笠原がぽつりと望遠鏡の傍らに立っていた。もう練習着から制服の白い開襟シャツとズボンに着替えている。ズボンの裾からのぞく右の足首には包帯が巻かれていた。右足だけが上履きではなく来客用のスリッパだ。それでも、先ほどの痛々しい姿がまるで嘘のようで春臣は狐につままれたかのように拍子抜けしてしまった。
「小笠原、足……」
「あぁ、うん。さっき、軽くひねった。……もしかして、コケるとこ見てた?」
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