第九章

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 こくりと頷くと、小笠原は「うわぁ、俺、かっこわりぃ……」とちょっと照れたように顔を俯けた。昨日、あんなに酷いことを言って傷つけたのに、それをひきずっているような感じはない。 「ちょっとアイシングしたら痛みはだいぶ引いたし、腫れもほとんどなかったから、あとは安静にしてればいいって。まぁ、二、三日は練習無理だろうな」 「そうなんだ」  大した怪我ではないとわかりほっと安堵した。その様子に小笠原は苦笑を浮かべる。 「コケ慣れてるから、よっぽどしくじらない限り、そんなひどい捻挫とかにはならないんだ」  小笠原はちらりと春臣のほうを見ると、すぐにそらし耳の後ろを掻いた。 「今日は、ちょっと今井の事考えてぼんやりしてて」 「俺の、せい……?」  悲壮な面持ちになる春臣に、小笠原が慌てたように大きく手を振る。 「いや、別に今井のせいじゃなくて! ちゃんと集中せずに跳んだ俺が悪いんだ!」  小笠原は窓際に置きっぱなしにしてあるシーロスタットに、ぽんと手を置いた。 「ちょっと思いついたことがあってさ。その事考えながら跳んだらしくじった。んで、今、俺の考えが正しかったのか実際に確かめてみた」  小笠原はそう言うと右足を少しひきずるようにして窓から少しはみ出しているシーロスタットの反射鏡に手を伸ばした。 「この反射鏡さ、今井、普段はあんまり大きく動かしたりしないだろ?」 「うん……」     
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