第九章

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「……小笠原が高橋と楽しそうに話してるのを見て悲しかった。小笠原に振り向いてほしかった。そうだよ、俺は……小笠原のことが好きだよ」 「今井……」  小笠原の顔が少しだけ驚いた後、嬉しそうに綻ぶ。 「だけど、ダメなんだ」 「なんで? 何がダメ?」 「俺は、楽しい事も嬉しい事もあっちゃいけないんだ」 「何それ……」 「小笠原言ってたよね、俺と初めて会った時、俺泣いてたって。あの直前に、俺は兄に怪我をさせてしまったんだ。不注意で道路に飛び出してしまった俺をかばって兄は車に撥ね飛ばされたんだ」  小笠原の顔が辛そうに歪む。 「兄は今でもその怪我のせいで足を引き摺ってる。バスケの選手で大学への推薦入学も決まっていたのに、それもダメになってしまった。全部、俺のせいで……っ」  春臣は唇を噛みしめ、じわりと押し寄せてくる涙を堪えた。 「だから、俺だけが幸せに楽しく暮らそうなんてことしてはいけないし、望んでもいけないんだ」  小笠原がほうっと大きく溜め息をついた。 「今井がお兄さんの怪我に責任を感じてるっていうのはわかった。百歩譲って、今井が自分の幸せなんて求めてはだめだっていうのを認めたとして、じゃあ、俺の幸せは? 今井は俺の幸せを奪う権利はあるの?」  小笠原の手が春臣の腕を掴む。 「今井」 「やっ、離せよ!」 「やだ。離さない」     
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