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第二章
どうせ、社交辞令だ。
そう思っていた。思い込もうとしていた。小笠原は昨日、別れ際に「また明日」と言っていたがそんな言葉を鵜呑みにするほど、能天気な人間ではない。自分に言い聞かせつつも、春臣は逸る気持ちを抑えきれなかった。丘の上の学校まで続くだらだらと長い坂道も、あまり苦にならない。
薄暗い廊下を渡り、地学室に入るとそそくさと窓をあける。小笠原の姿はすぐに見つかった。走り高跳び用のウレタンマットの傍らで、いつものようにストレッチをしている。
――本当に来るのかな。
期待と不安でぐるぐると渦を巻く感情を抑えながら、望遠鏡を抱え窓際に置く。
反射鏡を調整していると、小笠原はちらりとこちらを振り返り軽く手を上げた。春臣が見ていることに気がついたらしい。途端に心臓が跳ねる。こちらからも何か挨拶すべきだろうかと考えている間に、小笠原は今から挑む正面のバーに視線を戻した。
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