第八章

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第八章

 顔をあげ、小笠原が去っていったドアを見遣った春臣は、大きく深呼吸をするように溜め息をついた。それからようやくのろのろと身体を動かし淡々と望遠鏡を片付け始めた。  地学室にこもった熱気はじわじわと額に汗を浮き上がらせる。窓の外からは、相変わらず部活の掛け声とセミの鳴き声が聞こえる。いつもとまるで変わらないのどかな光景。誰が何をしようと何を思おうと、時間は変わらずに過ぎてゆく。  最後に、グラウンドの様子が目に入らぬよう注意しながら窓を閉めると、春臣は帰途に着いた。  家に帰り着くと早々に少しぬるめのシャワーを浴びて汗を洗い流す。そして軽い昼食をとってから、いつものように「バイトに行きます」とメモを残しコンビニに向かった。  何事もなく、淡々と日常を積み重ねて過ごさなければいけない。自分に起こった出来事を悲しんだり、自分を憐れんではいけない。そんな権利は自分にはないのだから。     
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