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「やはり、ここにはもう来ちゃだめだ」
「私が、村の人たちに、死神と間違われるから?」
皮肉な笑みを少女が浮かべる。
「ちがう。きみが、この湖に引き込まれそうに見えるから」
それを聞いて彼女は不思議そうな顔をしてほほえんだ。
「私、毬。まり、というの」
「俺、陶吉」
「陶吉、ありがとう。私、あなたの忠告どおり、ここにもう来ない。でも、あなたを決して忘れない」
陶吉は、悲しいような、せつないような息苦しさで、うなずくのが精一杯であった。
その時突然、強い風が、霧をなぎはらうように、二人の間に吹き込んだ。赤い花びらが、つむじ風のように舞い上がった。
息が止まりそうなつむじ風の中、陶吉は思った。
あの夢の娘は、毬の母さんだったんだ…と。
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