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終章
陶吉が、おぼつかない足取りで、ばばさの家に帰りついたのは真夜中だった。心配して迎えたばばさに、血の気のまったくない、ぼんやりとした表情で
「だいじょうぶだ。もう桜はみんな散ったから。そう、村の人達に伝えてくれ」
それだけ言って土間に倒れ、その後三日三晩眠り続けた。
あれは、夢だったのだろうか。目覚めて動けるようになった陶吉は、あの霧のかなたのような、記憶の跡を確かめようと、まだ少し熱のある体で、村はずれの丘に登った。
霧はすっかり晴れていた。樹木はつぼみを枝につけ、いのちがみなぎっている。湖は青く青く、澄んでいる。
そして、葉桜になったあの巨木は、根元から乱雑に切り倒され、湖へと、ぐったり、横たわっていた。
【終】
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