桜の木の下で

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名前もどこに住んでるのかも知らない。 けれど、この場所を共有する仲間みたいな意識からか、今はもうあえて聞こうともしなかった。 それは彼も同じだろうか。彼からも聞かれたことはなかった。 ただ、彼は一つ私と違う事をする。 いつも彼が持っているのはスケッチブックと色鉛筆。 それで下からみる桜をスケッチするのだ。 毎年同じ場所から見上げて書いているのに、なぜかその絵は毎回違う印象を受ける。 私は気にしないふりをしながら、彼が熱心に書く姿をちらちらと覗き見する。 そのスケッチは毎日、桜が散るまで続けられる。 それもまた変わらない日課だった。
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