3人が本棚に入れています
本棚に追加
けれど、今年はその日常が変わった。
桜がはらはらと散る中、いつものようにスケッチをかきおえた彼が、ふっと私の顔を見る。
「今年でもうお別れなんだ」
突然の言葉に私は面食らって彼を見つめる。
いままで最初以外話しかけてくる事のなかった彼が、初めて会話をしかけてきたのが、なぜか別れの言葉だとは、まったく想像もしていなかったから。
「え…?」
何故?と言おうとしたけど、それは言葉にならず、私はただ彼を見つめる。
「いままでありがとう」
彼はそう言うと立ち上がり、草のついた箇所をパンパンと軽く叩く。
そして私に向かって片手を差し出す。
私は訳のわからないまま、それでも自分の片手を恐る恐る差し出すと、その手に重ね合わせる。
ぐっと握り返されたその手は、まるで春の日差しのように柔らかくあたたかいものだった。
「それじゃあね」
そう告げると、彼は私の手を離す。
そしていつものように立ち去っていった。
最初のコメントを投稿しよう!